映画に描かれた建築・都市

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ゴシック建築

ロマネスクとルネサンスの中間時期の建築様式。その構成要素は,尖りアーチ,リブ ヴォールト,フライング バットレスであるが,これらの要素自体はゴシックの発明ではない。ゴシック建築の特徴は,これらの要素を統合して石造の教会堂を構造的に安定した形態へと完成したところにある。この様式が生まれたのはパリを中心とするイル ド フランスの地域で,ルイ七世の時にサン ドニ修道院長ジェジェールによって構成された同修道院の教会堂内陣部(1144)は,その最も早い例とされる。その後フランスでは,パリのノートルダムをはじめとしてシャルトル,ランス,アミアン大聖堂などの優れた例が発達したが,14世紀後半とりわけ15世紀には,装飾的意図の強いフランボワイエン様式が栄えることになった。ゴシック様式はヨーロッパ各地にも広まり,それぞれの国においてかなり長い間根強く保持された。(「建築大辞典〈縮刷版〉,1976年,彰国社」より)

ノートルダム大聖堂

パリに建つ大聖堂が有名であるが,「ノートルダム」という名称は「聖母マリア」の意味で,「ノートルダム大聖堂」パリに限らず各地に存在する。

パリ・ノートルダム大聖堂は,パリ旧市街を流れるセーヌ川の中のシテ島に建つゴシック建築である。パリ・ノートルダム大聖堂は,「パリのセーヌ河岸」として登録された世界遺産の一部である。

ノートルダムの鐘

「せむし」という言葉が差別用語にあたるとして題名が変更されたといわれている。

サンティアゴ大聖堂

サンティアゴ大聖堂への巡礼は中世に始まり,今日でも多くの巡礼者がサンティアゴへと向う。フランスからサンティアゴへの巡礼路は,トゥール,リモージュ,ル・ピュイ,トゥルーズを出発点とする4つのコースがあるとされているが,映画ではル・ピュイが出発点となる。スペイン側は「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」として,フランス側も「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」として世界遺産に登録されている。

アミアン大聖堂

ラン大聖堂

ランス大聖堂

シャルトル大聖堂

これらの大聖堂には,パリから日帰りで訪れることができる 。「アミアン大聖堂」,「シャルトル大聖堂」も世界遺産に登録されている。また,ランス大聖堂も,「ランスのノートル-ダム大聖堂,サン-レミ旧大修道院及びト宮殿」として世界遺産に登録されている。

ジャンヌ・ダルク

ジャンヌ・ダルクを演じたミラ・ジョヴォヴィッチは,人気ゲームソフトを映画化したSF・アクション・スリラー『バイオハザード・シリーズ』のアリスを演じた女優。『ジャンヌ・ダルク』におけるリュック・ベッソンの演出はかなりアクション寄りである。

シノン城

メーヌ川からシュリー=シュル=ロワールまでの渓谷の文化遺産は,「シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷」として世界遺産に登録されている。

ひまわり

『ひまわり』に描かれているのは庶民の生活空間であるのだが,それでも,ミラノ中央駅,モスクワの赤の広場などの名所がところどころに登場する。シリアスなドラマではあるのだが,前半にはユーモラスな展開もある。その点が,同じく第2次世界大戦による庶民の苦悩を描いたイタリア映画=『ライフ・イズ・ビューティフル』(ロベルト・ベニーニ監督,1998年)に共通しているように思う。

モン・サン・ミシェル

「モン・サン・ミシェルとその湾」という名称で世界遺産に指定されている。

ラッシュアワー

『ラッシュアワー』(1998年),『ラッシュアワー2』(2001年)。

ハリー・ポッターと賢者の石

魔法世界の商店街への入口のあるパブへと向かう街並みは,ロンドンのレドンホール・マーケットで撮影されたといわれる。また,魔法世界の商店街にある「グリンゴッツ魔法銀行」にはオーストラリア・ハウス(オーストラリア・ハイ・コミッション)が撮影に使用されたといわれる。

ゴースランド駅

列車走行のシーンはスコットランドにあるグレンフィナン陸橋で撮影されている。グレンフィナン陸橋は高さ約30メートルのコンクリート構造の橋。列車がこの橋を走るシーンは印象的である。

クライスト・チャーチ

カレッジは,学生の多くと一部の教職員とが寝食をともにするとされるイギリス独自の大学の単位。「学寮」などと訳される。「ホグワーツ魔法学校」もカレッジ的である。

ダラム大聖堂

ダラム大聖堂は「ダラム城と大聖堂」という名称で世界遺産に登録されている。

ハリー・ポッター

映画鑑賞のレイティング(年齢制限)として,制作国のアメリカでは,『アズカバンの囚人』(2004年)『炎のゴブレット』(2005年),『不死鳥の騎士団』(2007年)の3本は「PG-13」,その他は「PG」の指定を受けている。「PG-13」は,「PG」よりも厳しく,暴力や恐怖の表現が含まれ,13才未満の子供に対しては保護者の判断が必要となる基準である。

第5話 ゴシックの空間
         ー天空への飛翔

年表

前章では,中世の中期にあたるロマネスクの時代とロマネスクから連想される空間概念について述べた。ロマネスク建築は厚い壁やアーチ・ヴォールトといった特徴をもちはするが,統一されたスタイルには至っておらず,むしろ地方色豊かな建築の総体である。だからこそ,ロマネスクの時代にはヨーロッパ各地に個性あふれる建築が生み出された。しかし,その地方色豊かで個性的な建築は,中世後期に,ある統一されたスタイルへと向かっていく。そのスタイルがゴシックである。

5-1. フランスのゴシック聖堂

ヴィクトル・ユーゴー(1802‐85)の小説=「ノートルダムのせむし男」(1831年)は数度にわたって映画化されている。そのうちの一つに,1939年に製作されたウィリアム・ディターレ監督の『ノートルダムのせむし男』がある。

映画は以下の説明から始まる(ここで,ルイ11世(1423‐83年)は1461〜83年に在位したフランス王である)。

15世紀末
欧州は大きな変革を迎えようとしていた
100年戦争を経て平和を手にした仏国民は
ルイ11世の統治下で進歩を夢見たがー
迷信と偏見が冒険心を打ち砕いた

ノートルダム大聖堂 パリ・ノートルダム大聖堂

パリ・ノートルダム大聖堂 パリ・ノートルダム大聖堂

ゴシックの後,時代は15世紀から16世紀にかけてのルネサンスへと向かう。逆にいえば,ゴシックはルネサンスの直前の時代である。『ノートルダムのせむし男』は,ゴシック建築を代表するパリ・ノートルダム大聖堂写真)を舞台としながら,まだルネサンスが訪れていないゴシックの時代を描いている。

『ノートルダムのせむし男』の主人公はノートルダム大聖堂の鐘突き男=カジモド。醜い容貌に生まれついたカジモドはフロロ伯爵に拾われ大聖堂の中で育てられ,鐘楼から町を見下ろしながら成長する。眼下の町で,人々は大聖堂を見上げ自由を求めるが,フロロは時代の変化を阻もうとする。ジプシーの娘=エズメラルダも自由を求める一人であるが,放浪の詩人=グランゴアル,警護隊の隊長=フィーバスらとともに時代に翻弄される。映画では,特殊メイクによってカジモドの姿が醜く演出される。この演出は,1939年当時の映画としては,驚きの視覚効果であったろうと思う。

パリ・ノートルダム大聖堂前広場 パリ・ノートルダム大聖堂前広場

エズメラルダは魔女裁判にかけられ,大聖堂前の広場で処刑されようとする。「1:20:50〜」がその処刑シーンであるが,ここでカジモドが大聖堂の壁をつたって広場(写真)へ舞い降り,エズメラルダを救出する。カジモドはエズメラルダを抱えて大聖堂へと舞い戻り,「聖域だ」と叫ぶ(大聖堂は聖域であり司法の権限は及ばない)。

正面にあるローズウィンドウ(バラ窓)がこの聖堂の立面を特徴づけている。ローズウィンドウにはステンドグラスがはめ込まれている。また,聖堂内部の礼拝堂の壁面にもステンドグラスが多用されている。壁面にステンドグラスが用いられていることは,ロマネスク時代の厚い壁による空間構成と対比的である。

 

パリ・ノートルダム大聖堂 ガーゴイル

『ノートルダムのせむし男』は,1996年にディズニー映画が,『ノートルダムの鐘』(ゲイリー・トゥルースデイル&カーク・ワイズ監督)として,アニメーションでリメイクしている。

育ての親である判事=フロロに「下界は邪悪な場所,大聖堂こそが聖域」と教えられてきた醜男=カジモドが,祭りの日に下界に降り,ジプシーの娘=エスメラルダと出会うという設定はオリジナルと同様であるが,『ノートルダムの鐘』にはディズニー映画らしい演出が施されている。カジモドはガーゴイル(怪獣の姿をした彫刻,写真)たちと話をし,フライングバットレスや雨樋をつたいながら,大聖堂の壁を自由自在に上り下りする。その姿はまるでスパイダーマンさながらで,『ノートルダムの鐘』は,アニメーションならではの手法で,天高くそびえるノートルダム大聖堂をダイナミックに描いている。

『ノートルダムの鐘』のカジモドが大聖堂の壁を上り下りできるのは,壁に多様な装飾が付加されていて,壁が凹凸だらけだからだ。その点で,ゴシックの聖堂には,聖人やガーゴイルなどの多くの生命が集まった森のような存在感がある。

ノートルダム大聖堂の工事は,12世紀に始まったとされているが,現在の姿が完成するまでには100〜200年もの歳月がかかっているといわれている。その後,19世紀に大きな修復工事が行われたという記録もある。

 

フランス映画=『サン・ジャックへの道』(コリーヌ・セロー監督,2006年)は,フランスからスペイン北西部にあるキリスト教の聖地=サンティアゴ・デ・コンポステーラ(サンティアゴ)への巡礼路を舞台に,現代の9人の男女の人生観を描いたハートフルなロードムービー(移動空間型映画)。会えば喧嘩を始めてしまう3兄妹(長男・長女・二男)は,亡くなった母の遺産を相続するために巡礼ツアーに参加する(そうしなければ遺産が相続できないというのが母の遺言だったから)。巡礼ツアーの参加者9人は,ガイドを含め,それぞれが人生に問題を抱えているが,なんとか巡礼のゴールへと向かう。

「0:12:59」にル・ピュイのノートルダム大聖堂,「1:01:38」にはフランス・モワサックのサン・ピエール修道院が映る。そして,スペイン・サンティアゴのサンティアゴ大聖堂が登場するのは「1:32:35」2。『サン・ジャックへの道』への道に登場するこれらの修道院・大聖堂のスタイルは,ゴシックというよりはそれ以前のロマネスクの建築である(まだゴシック様式に至っていない)。しかし,「1:26:50」に外観が登場するスペイン・ブルゴスのブルゴス大聖堂は堂々としたゴシック様式である。

 

ここで「聖堂」というのはキリスト教の礼拝または集会のための建物を意味している。「聖堂」を「教会」と呼ぶ場合もあるが,本来の「教会」はキリスト教の人々の集まりを意味するはずなので,建物を指す言葉としては「聖堂」または「教会堂(教会建築)」が正しい。そして,特に司教区全体の中心となる司教座が置かれる主要な聖堂が「大聖堂」(フランス語では「カテドラル」,イタリア語では「ドゥオモ」,ドイツ語では「ドーム」または「ミュンスター」)である。

これまでも述べてきたように,西ローマ帝国が5世紀に崩壊して以降のおよそ1000年が中世にあたる。1000年の中世は,おおまかにはビザンチンロマネスクゴシックという3つの時代に分けることができる。ゴシックは中世後期にあたる12〜15世紀頃の建築様式で,聖堂はこの時代に独特のスタイルを現した。

中世はヨーロッパ全体にキリスト教が布教していく時代であり,この時代のヨーロッパの建築の歴史は聖堂の歴史であったといえる(ヨーロッパの一部ではイスラム教の影響もあったが…)。その聖堂のスタイルが完成していく時代こそがゴシックであった。

ゴシック建築の特徴は,リブヴォールト),ポインテッドアーチ),フライングバットレス)である。リブヴォールトは骨の付いた円天井,ポインテッドアーチは尖ったアーチ,フライングバットレスは聖堂の大屋根を横から支える(控え壁の役目を果たす)飛び梁である。ゴシックの時代には,これらの特徴によって天に向かってそびえ建つ壮大な建築が作られた。

特に,厚い壁を取り払うことを可能にした構造技術であるフライングバットレスがゴシック建築の空間に大きな変化をもたらした。フライングバットレスが外部から壁を支えることによって。壁そのもののの自立が必要ではなくなり,壁面に大きな開口を設けることが可能になる。したがって,ステンドグラスによって多彩な色彩が放射される内部空間は,フライングバットレスの技術を伴わないロマネスク時代の教会にはみられないものであった。ロマネスクの建築では,小さな窓からの光が厚い壁を貫通し,明暗が対比する象徴的な空間が現れる。それに対し,ゴシックの建築では,ひたすら明るい光の空間が現れている。

リブボールト リブヴォールト

アーチ ポインテッドアーチ

フライングバットレス フライングバットレス

 

ゴシック建築はヨーロッパ全土で流行した様式だが,当初はフランスを中心とする北ヨーロッパで栄えた様式だった。

パリ・ノートルダム大聖堂はもっとも有名なゴシック建築であるが,フランスには,その他に,アミアン大聖堂ラン大聖堂写真),ランス大聖堂シャルトル大聖堂など(写真)などいくつかの重要なゴシック聖堂がある。これらは,それぞれ,アミアン,ラン,ランス,シャルトルという町に建つ聖堂であるが,正式な名称はどれも「聖母マリア」を意味する「ノートルダム大聖堂」である。

ラン大聖堂 ラン大聖堂

ラン大聖堂 ラン大聖堂

シャルトル大聖堂 シャルトル大聖堂

 

ランス大聖堂 ランス大聖堂

北フランスのランスにあるランス大聖堂(ランス・ノートルダム大聖堂,写真)では,13世紀から19世紀にかけて,フランス国王の載冠式が行われていた。シャルル7世(1403‐61年)がランス大聖堂で載冠を受けたのは,14世紀中ごろからのほぼ1世紀にわたってイギリス王家とフランス王家が対立した百年戦争の最中だった。この時期のフランスを危機から救い,シャルル7世の載冠を助けたとされる少女がジャンヌ・ダルク(1412頃ー31年)である。

ジャンヌ・ダルクの短い生涯はいくつかの映画に描かれているが,そのうちの一つがリュック・ベッソン監督の『ジャンヌ・ダルク』(1999年)。映画は次のような時代の解説から始まる。

1420年ー。英仏両国のトロワ条約によりー
フランスは国王の死後英国領となった
だが英国国王も死去し
生後間もないヘンリー6世が即位
フランスの王太子シャルル7世はー
王位を奪い返すべく反旗を翻すがー
英国はブルゴーニュ派と組みフランスに侵攻
コンピエーニュ
ランス
パリ
シャルル7世が正式な王になるためにはー
ランスで載冠しなければならない
だがランスは英国軍の制圧下にある
フランスは暗黒の戦乱時代
フランスを救えるのはただひとつー
奇跡

(以上は日本語字幕。英文の解説はより詳しい)。

ジャンヌは幼いころにイギリス軍に両親と姉を殺される。そして,成長したジャンヌは,フランス中部・ロアール渓谷のシノン城のシャルルを訪ね,「私の役目は王太子をランスに連れて行くこと」というジャンヌが神から受けた啓示を伝える。ジャンヌは,中西部のオルレアンを包囲するイギリス軍を退け,1929年にランスでの載冠式が実現する。映画では「1:44:30」にランス大聖堂の正面が現れる。

その後のジャンヌには苦難が待ち構える。神の啓示を受けてフランスを救ったはずのジャンヌ・ダルクは,魔女として火あぶりに処され,19才の生涯を閉じる。ジャンヌ・ダルクとは誰だったのか? 神の啓示とは何なのか? 映画は神の啓示とジャンヌの生涯にある解釈を与えている。

映画『ジャンヌ・ダルク』では戦争のシーンが際だっている。しかし,百年戦争はゴシック時代末期の出来事で,ランス大聖堂は戦争の時代に建てられたものではない。大聖堂は5世紀以降に建設されたが,壁面が見事な彫刻に飾られる今日のものは,1210年に起こった火災の後に再建されたものとされる。内陣は13世紀,塔が完成したのは15世紀。その後,第1次大戦中に被害を受けるが,1938年に修復が完了している。

 

アミアン大聖堂 アミアン大聖堂

アミアン大聖堂内部 アミアン大聖堂

アミアン大聖堂写真)は,フランスでも最大のゴシック建築で,全長145メートル,礼拝堂の高さは42メートル。13世紀に建てられたが,左右非対称の2本の塔は,南側が14世紀末,北側が15世紀に建設されている。ラン大聖堂は,ゴシック盛期に建てられたアミアン大聖堂やランス大聖堂に比較して古い時代の聖堂で,パリ・ノートルダム大聖堂より160年早く建設が開始されたといわれている。シャルトル大聖堂は,12世紀終わりの火災でほとんどが消失された後に再建された聖堂である。左右の2本の塔は明らかに時代の異なったデザインとなっていて,1本が落雷にあい16世紀に再建されたという記録が残っている。

これらの大聖堂は,いずれも長い年月に渡って工事が続き完成に至った建築である。火災や落雷で消失したものが再建されているし,繰り返し修理も行われきている。歴史を経た建築であるがゆえに複雑な構成も見られるが,リブヴォールト,ポインテッドアーチ,フライングバットレスによる構成は共通しており,高くそびえる荘厳な形態が表れている。

6-2. イタリアンゴシックと浮遊する森

ゴシックという言葉は,後のルネサンス期になって,ルネサンスの中心地=イタリアの人々が北フランスの建築様式を「ゴート族の野蛮な様式」と揶揄したことに由来するといわれる。ノートルダム大聖堂のあるフランスは,ヨーロッパの南に位置するイタリアから見れば,北の野蛮な地方だったのであろう。しかし,ゴシック様式はフランスのとどまらず,ヨーロッパ全体に,もちろんイタリアにも広まった様式である。

 

ミラノ大聖堂 ミラノ大聖堂

ミラノ大聖堂 ミラノ大聖堂

第2次世界大戦によって引き裂かれた男女を描いたイタリア映画の名作=『ひまわり』(ヴィットリオ・デ・シーカ監督,1970年)に,一瞬ではあるが,イタリア・ミラノのミラノ大聖堂が映る。ソフィア・ローレンが演じたジョバンナとマルチェロ・マストロヤンニが演じたアントニオはナポリで結婚式を挙げるが,アントニオは数日後にロシア戦線に送られる。映画は,ジョバンナが行方不明になったアントニオの情報を探すシーンから始まるが,そのシーンの舞台となる建物の窓越しにミラノ大聖堂が映る。また,ミラノ大聖堂前面の大聖堂前広場に面するガレリア(19世紀に建設されたガラスのヴォールトとドーム)も映る。

イタリア・ミラノでミラノ大聖堂の建設が始まったのは1386年と記録されている。ミラノ大聖堂はイタリアン・ゴシックの傑作であり,フランスのゴシック聖堂とはかなり違ったスタイルをもっている。フランスのゴシック大聖堂が細く尖った塔の建築だとすれば,ミラノ大聖堂はふんわりと天に浮遊しようとする森のような建築だ。
 見ていると浮き上がってしまうような浮遊感がこの大聖堂にはある。ミラノ大聖堂には,垂直の線を強調したり,上部にあるステンドグラスのガラスを強調しているなどの特徴が見える。こうした装飾によって,天に向う宗教心が演出されている。ミラノ大聖堂は奥の塔から屋上に上がることができ,まるで空を飛ぶ森の中を巡るような空中散歩を楽しむことができる。

 

イタリアン・ゴシックの聖堂としては,ミラノ大聖堂の他に,13世紀末に着工されたオルヴィエート大聖堂やフィレンツェのサンタ・クローチェ聖堂などを挙げることができる。オルヴィエート大聖堂の建つオルヴィエートは,ローマとフィレンツェの間に位置する丘上都市である(ローマからもフィレンツェからも容易に日帰りで訪れることができる)。イタリアには中世にその姿が形成された都市が多く,丘上につくられた都市が少なくない。中世には,都市が一つの国家として防御という機能をもたなければならなかった。今日のオルヴィエートには,町へアクセスするケーブルカーが設置されているが,中世においては町へのアクセスは容易でなかったはずだ。町は一つの国家として自立し,だからこそ,それぞれの町に大聖堂が必要だったのだろうと思う。

 

宮崎駿監督のアニメーション映画の一つに『天空の城ラピュタ』(1986年)がある。この映画には飛行石という石の力で大きな森が浮遊するシーンがある。浮遊する森はミラノ大聖堂に姿を連想させると思うのだがどうだろうか?

『風の谷のナウシカ』(1984年),『魔女の宅急便』(1989年),『紅の豚』(1992年)といった宮崎駿の映画では空を飛ぶことが物語の重要なプロットであった。『ルパン3世/カリオストロの城』(1979年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)にも空中高くまでそびえ立つ建物や人物の飛行シーンが描かれている。

宮崎駿のアニメーションは舞台は地名が具体的に特定されてはいないが,制作過程においては,実在の建築・都市のイメージを映像化するためのロケハン(映画に使用する舞台の調査)が繰り返されていただろうと思う。アニメーションは舞台がどこどこなのではないかという噂は数多い。

モンサンミッシェル モン・サン・ミッシェル

モンサンミッシェル モン・サン・ミッシェル

その噂の一つとしてよく話題になる『天空の城ラピュタ』のモデルがフランス北西部の湾に浮かぶ小島=モン・サン・ミッシェル写真)である。島の中央に修道院がそびえ,城壁の内部に中世以降の町が残る。修道院の礼拝堂は8世紀に建設されたとされるが,全体の姿は,中世のロマネスク期,ゴシック期を通じて形成されたものである。前章で述べたように,修道院を中心に形成された町の姿は中世ロマネスクの空間のイメージなのだが,モン・サン・ミッシェルにはゴシック様式が重なる。巨大な石の建築でありながら,天空への向かう意志が込められ,不思議に重さを感じさせない奇跡の複合体がここにある。モン・サン・ミッシェルは『ルパン3世/カリオストロの城』のカリオストロ城であるのかもしれないし,『千と千尋の神隠し』の湯屋かもしれない。

 

大泥棒=ルパン3世が城に幽閉されたお姫様=クラリスを救い出す『ルパン3世/カリオストロの城』は,偽札=「ゴート札」をめぐる物語(ゴートという名前はゴシックを連想する)。『ルパン3世シリーズ』らしいオープニングで「ゴート札」が登場し(このユーモラスなシーンは宮崎駿のルパン3世へのオマージュであろう),「0:2:14〜0:04:03」にタイトルが流れ,タイトルバックにはカリオストロ公国への向かうルパン3世の旅が描かれる。その後の物語は城を中心とした町=カリオストロ公国で展開する。「0:5:55〜」のカーチェイスのシーン,「0:21:16〜」に暗殺集団が登場するシーン,「0:29:12〜」のルパン3世が仲間の次元大介と共にカリオストロ城に忍び込むシーンなどなど,随所にアニメーションでしか描けない躍動感が表れ,高さを生かしたアクションが展開する。「0:45:16」に,ルパン3世はカリオストロ伯爵によって塔の上から地下へ落とされるが,その高低差の表現には息をのむ。「1:13:41〜」には,クラリスとカリオストロ伯爵の結婚式が描かれるが,この礼拝堂での結婚式は中世の空間そのものといえる。クライマックスとなる「1:23:57〜」のシーンは,天高くそびえる時計塔で,ルパン3世とカリオストロ伯爵が対決する。ルパン3世は紛れもなく現代劇ではあるが,随所に中世の空間のイメージが散りばめられている。

 

不思議の国に紛れ込む少女=千尋の物語=『千と千尋の神隠し』には巨大な湯屋が登場する。その湯屋は,日本の城のようでもあるし,西洋の聖堂のようにも見え,そして,水上に建つ建築という点でモン・サン・ミッシェルに類似する。『ハウルの動く城』(2004年)に登場する城も,大地から独立した巨大な建築という点で,やはりモン・サン・ミッシェルに類似する。

ゴシックの建築は古代エジプト建築におけるピラミッドのような量塊性をもちはするが,しかし,天に向かう造形,複合する装飾を伴うその姿は,幾何学的なピラミッドとはまったく異なる。ゴシックの建築には,天空へと向かう精神がこめられている。

6-3. 天空での闘い

アメリカン・コミックのヒーロー=バットマンを描く映画は,1989年にティム・バートン監督の『バットマン』がつくられて以来シリーズ化し,『バットマン・リターンズ』(1992年),『バットマン・フォーエヴァー』(1995年),『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年),『バットマン・ビギンズ』(2005年)が制作されている。バットマンは,犯罪が増加した都市=ゴッサム・シティを恐怖に陥れる怪人を相手に闘うヒーロー。そのキャラクターはバット(こうもり)という暗闇の生物のアナロジーとして創作されている。バットマンに対抗するジョーカー,キャットウーマン,ペンギンら悪役のキャラクターもある種の暗さをもっている。

古代ローマが崩壊して以降,ヨーロッパに人間中心主義=ルネサンスが訪れまでのおよそ1000年の中世は「暗闇の時代」と呼ばれることがある。古代ローマ時代には存在していたであろう世界を統一するシステムは崩壊し,中世は暗黒の世界として幕を開けた。城壁で守られた都市の内部には平安があったとしても,都市の外は荒野であったろう。平安をもたらすはずの宗教は,しかし,同時に異端や魔女といった対立概念も生み出した。

ゴッサム・シティはゴシックを連想させる名称と思える。ゴッサム・シティという空間は,暗黒の魔王=ジョーカーが現れた「暗闇の中世」だと解釈することができると思う。そして,その「暗闇の中世」はゴシック的な空間でもある。

 

第1作『バットマン』は,テーマ曲とともにコウモリの姿を象ったバットマンをシンボルが浮かび上がるスターティング・タイトルで幕をあける(最後に浮かび上がるシンボルは,ポインテッド・アーチのように見える)。画面は限りなく暗く,テーマ曲が終わるまでシンボルはその姿を現さない。

ゴッサム・シティはおそらくニューヨークのアナロジーなのだが,この町には超高層ビルが林立する。続く「0:02:35〜」にバットマンはビルの屋上に現れ,マントをひるがえして屋上から地上へと去っていく。映画の全編は夜のシーンの連続で(昼のシーンもあるが暗く撮影されている),バットマンはマントやワイヤーなどの装備を駆使して,夜の町の宙を舞う。映画に映る高層ビルは,鉄とガラスの近代建築とは対照的なある種のテイストをもっていてる。ゴッサム・シティは中世の城のような突起にあふれた建築の集合体なのだ。ビルの壁や屋上にまで路地が回り込み,そこには犯罪者が隠れている。バットマンは,『ノートルダムの鐘』のカジモドが,壁の突起を使ってノートルダム大聖堂の自由自在に上り下りするように,ゴッサム・シティのビルの突起や窪みを使って,自由に垂直移動をする。

「1:45:45〜」のシーンで,バットマン(マイケル・キートン)が操縦するバットプレーン(小型飛行機)は,ジャック・ニコルソン演ずる極彩色の悪役=ジョーカーに一撃で撃墜される。撃墜されたバットプレーンはゴッサム・シティ大聖堂前に着地し,その聖堂がバットマンとジョーカーの最後の決戦の舞台となる。

ジョーカーは女性新聞記者=ヴィッキー・ベイル(キム・ベイシンガー)を人質にとり,大聖堂の鐘楼を登る。近未来を描いているはずの『バットマン』であるのだが,バットマンにはゴシック・スタイルの聖堂での闘いがよく似合う。鐘楼ででのヴィッキーとジョーカーのダンス・シーンはディズニー映画の『美女と野獣』(1991年)を連想させるが,18世紀に原作が書かれたとされる『美女と野獣』も,中世を舞台とした(と思える)物語である。

 

ジャッキー・チェン主演のカンフー映画=『シャンハイ・ナイト』(2003年,デイヴィッド・ドフキン監督)には,ロンドン・テムズ河畔に建つビッグ・ベン(ウェストミンスター宮殿=イギリス国会議事堂に付属する時計塔)での格闘シーンがある。『シャンハイ・ナイト』は『シャンハイ・ヌーン』(2000年,トム・ダイ監督)の続編で,ジャッキー・チェンがおとぼけキャラクターの仲間=ロイ(オーウェン・ウィルソン)と共に事件に立ち向かうコメディタッチのカンフーアクションである。『シャンハイ・ヌーン』の舞台はアメリカ西部だったが,『シャンハイ・ナイト』ではイギリス・ロンドンが舞台となった。

映画『シャンハイ・ナイト』はいかにもアメリカ映画的なコメディであり,ドタバタがやや過ぎるようにも思えるが,ジャッキー・チェンの生身のアクションには息を呑む。「1:33:29〜」の時計塔でのシーンでは,歯車が動く内部空間でジャッキーと悪役がフェンシングで闘う。このシーンは,『ルパン3世/カリオストロの城』の実写版と見ることができると思う。最後にはジャッキーと相棒のロイが時計塔の飛び降りる。

ビッグ・ベンは,1834年焼失に消失したウェストミンスター宮殿(16世紀以来のイギリス国会議事堂)に代わって建てられたビクトリア朝(1837~1901年)時代の建築である。したがって中世ゴシックとは無関係なのだが,ビッグ・ベンを含むウェストミンスター新宮殿の様式はゴシック・リバイバルと呼ばれている。すなわちビッグ・ベンは,後の時代にゴシックを摸して建てられた建築である。

中世ゴシック以降,時代はルネサンス,バロックと転換するが,バロック以降の建築様式は,過去の模倣を繰り返すことになる(ゴシックだけが模倣されたわけではなく,様々な様式がリバイバルされる。ルネサンスも古代様式の模倣だといえなくもない)。約100メートルの高さにそびえるビッグ・ベンの姿は,リバイバルではあるが,ゴシックの雰囲気をよく醸し出している。ビッグ・ベンという名称は,大男であった時計塔工事の責任者=ベンジャミン・ホールの愛称に由来するといわれている。

 

ジャッキー・チェン主演の人気シリーズ=『ラッシュアワー』の3作目=『ラッシュアワー3』(2003年,ブレット・ラトナー監督)のクライマックス・シーンの舞台にはパリのエッフェル塔が使われている。『ラッシュアワー』も,『シャンハイ・ナイト』同様のコメディタッチのカンフー・アクション映画。対照的な凸凹コンビを主役に据えるのがコメディの常套手段であるのだが,ここでのジャッキーの相棒は黒人コメディアンのクリス・タッカー。寡黙なジャッキーと弾丸のごとくセリフを乱発するクリス・タッカーがここでの凸凹コンビである。

ジャッキーが護衛をする中国大使が,真田広之演ずる悪役に狙撃される。ジャッキーと相棒は狙撃犯を追ってパリに飛ぶ。そして,「1:05:46〜」がエッフェル塔での対決シーンとなる。

エッフェル塔は,1889年にパリで万国博覧会が開催された際に建てられた高さ300メートルの鉄骨造建築。建築の高さは,古代ピラミッド時代にすでに100メートルを超えていた。クフ王のピラミッド(ギザの三大ピラミッド)の高さは140メートルであった。その後,中世には大聖堂などに多くの塔が建てられたが,塔の高さは100メートルを大きく上回ってはいない。建築の高さが突然に100メートルのスケールを大きく超えるのはエッフェル塔以降の出来事である。

エッフェル塔そのものは近代建築であり,ゴシック様式とは無関係である。しかし,映画における高所での対決の舞台としては,『バットマン』の大聖堂,『ルパン3世/カリオストロの城』や『シャンハイ・ナイト』の時計塔に類似する。ゴシック建築が獲得した高さ=天空の空間は,一つの典型的な映画的対決の舞台である。

6-4. ハリー・ポッターといつか見たゴシック建築

ファンタジーの世界(空想の世界)は,現実とは異なる,しかし,現実とよく似た世界のことだと思う。いかなる空間も映像として創出できるはずの映画が現実とまったく異なる世界を描くことは希で(まったくないといえるかもしれない),ほとんどの映画は「いつか見た空間」を描いている。そういった意味で,映画にはファンタジーがよく似合う。

ファンタジーには中世的な空間が描かれることが多い。それは,中世が近くもなく遠くもない,そして,現実ではないとしても誰にも容易に想像が可能な「いつか見た空間」,今もどこかに残り伝えられている空間であるからではないだろうか? ファンタジー映画の代表作となった『ハリー・ポッター・シリーズ』もそんな中世的な映画であろうと思う。

映画『ハリー・ポッター』は,2009年までに,『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年,クリス・コロンバス監督),『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002年,クリス・コロンバス監督),『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004年,アルフォンソ・キュアロン監督),『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005年,マイク・ニューウェル監督),『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007年,デイヴィッド・イェーツ監督),『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009年,デイヴィッド・イェーツ監督)が製作されている。

 

『ハリー・ポッター』はイギリスを舞台とする現代の物語である。下表に第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』のタイムテーブルを示す。『ハリー・ポッターと賢者の石』において,あるいはその続編でも同様なのであるが,映画の前半では,主人公のハリー(ダニエル・ラドクリフ)はロンドンにあるマグル(魔法の使えない一般人のこと)の家で生活をしている。ハリーは親戚の家で,孤児として意地悪な扱いを受けるが,11歳の誕生日を迎える「0:12:16〜」の海の別荘のシーンで,大男のルビウス・ハグリッドから「ホグワーツ魔法学校」への入学許可書を受け取る(入学許可書はその前にもフクロウによってハリーに届けられるのだが,育ての叔父に妨害されて受け取れない)。

ハリー・ポッターと賢者の石
ハリーポッター

「0:18:23」にロンドンの遠景としてビッグ・ベン(ウェストミンスター宮殿)を俯瞰するカットが挿入され,ハリーはハグリッドとともにロンドンで「ホグワーツ魔法学校」への入学の準備を始める。杖やフクロウを買いそろえ,「0:31:03〜」のシーンで,ハリーはキングズ・クロス駅の「9+3/4番線」から魔法学校へと向かう列車に乗る。蒸気機関車がイギリスの田園を行くうシーンは,ハリーの旅立ちを描くと同時に,観客を別世界へと誘い込む10。

ハリーは,「0:37:47」に「ホグズミード駅」(イギリス中東部にあるゴースランド駅がロケ地)に到着し,ラストシーンの「2:21:36」で同じく「ホグズミード駅」からロンドンに戻る。その間は現実とは異なる別世界=「ホグワーツ魔法学校」が物語の舞台となる。

「ホグワーツ魔法学校」が最初に姿を現すのは「0:38:42」。中世の城のような外観が夜のシーンに幻想的に姿が浮かび上がる。「ホグワーツ魔法学校」の外観はCGで創作された架空の建築であると思われが,しかし,その内部と中庭などの外部は実在するいくつかの建築で撮影されている。そして,そのほとんどはイギリスのゴシック建築である。

「ホグワーツ魔法学校」が舞台となる「0:38:28〜2:17:35」の間,場面は学校のホール(階段室),食堂,廻廊,教室,中庭,校庭などを行き来する。これらの場面は,それぞれが別々のロケ地で撮影され,映画的に編集されて架空の「ホグワーツ魔法学校」が創り出されている。

「ホグワーツ魔法学校」の食堂は,新入生のクラス分けが行われる「0:41:27〜」にはじめて登場し,その後も繰り返し登場する。この食堂は,オックスフォードにあるクライスト・チャーチの大ホールで撮影されたといわれている(実際にはセットで撮影されているかもしれないのだが,その場合もこの大ホールがイメージされていることは確かだろうと思う)。蝋燭やハロウィンのカボチャが宙に浮かび,フクロウが飛行する幻想的な空間として描かれるが,

オックスフォードはイギリス中部にある大学都市。この町にある有名なオックスフォード大学の歴史はゴシック時代=12世紀までさかのぼる。オックスフォード大学は多数のカレッジから構成されるが,クライスト・チャーチもカレッジの一つである。また,クライスト・チャーチの礼拝堂はオックスフォードの大聖堂を兼ねる。現在のクライスト・チャーチの建物は16世紀に再建されたものであるが,ゴシックの雰囲気が残っている。

食堂に入る前にハリーが学校にはじめて足を踏み入れる「0:39:15〜」のホール(階段室)のシーンや「1:00:35〜」にハリーが女友達のハーマイオニーに両親のトロフィーの在処を教えられるのトロフィールームもクライスト・チャーチでの撮影といわれる。

その他,オックスフォード大学のボドリアン図書館が「1:28:27〜」の図書室,および「2:14:11〜」の病室のシーンに使われているといわれる。

その他の教室,廻廊,中庭は,ダラム大聖堂,グロスター大聖堂,レイコック修道院,アニック城などで撮影されたといわれる。

ダラム大聖堂はイギリス北部のダラムにある大聖堂。1130年頃に建てられたロマネスク(ノルマン・ロマネスク)様式の聖堂であるが,内部に見られるリブ・ヴォールトはゴシックを予感させるものである。また,13~15世紀に増改築されたため,ゴシックの外観を合わせもつ。「1:36:36〜」にハリーが雪景色の中庭で白フクロウを飛ばすシーンがダラム大聖堂で撮影されている他,内部の廻廊も撮影に使用されていると思える。

グロスター大聖堂は,14世紀にロマネスクの聖堂を改造して建てられたイギリス・ゴシック建築。リブ・ヴォールトの天井が網目状の装飾をなし,独特の雰囲気をは,交錯するリブと辻飾が独特の網状装飾をなす。レイコック修道院は13世紀に建てられた建築である。「0:55:01〜」のフーチ先生の飛行訓練の授業や「1:15:27〜」の魔法の杖に乗って飛行する選手の球技であるクィディッチの試合(クィディッチはサッカーのアナロジーであろう)などの外部のシーンはアニック城で撮影されたという。アニック城も起源が11世紀にまで遡る建築である。

 

『ハリー・ポッター』は児童文学であるはずだが,6作に及ぶ映画の一部には,ややリアルな暴力や恐怖の表現が含まれるようになっている。『ハリー・ポッター』が魔法の世界を描くファンタジーであることに間違いはないのだが,魔法が必要な世界をコメディではなくリアルに描こうとすれば,ある程度の闇の空間を演出せざるをえないのだろうと思う。闇があってこそ希望や友情が生まれるのが映画の本道だろうと思えるからだ。そして,闇と魔法の世界のイメージに相応しい空間には,天空へと向かう独自のスケールをもった中世ゴシックがよく似合う。映画『ハリー・ポッター』には,空を飛び,建物を見上げ,闇とステンドグラスが交錯する独特の光に包まれた空間が塗り込められている。

●『エイリアン』はゴシックホラー(追記予定)